日本人は古くから木の文化を育み、そして木で造った家に慣れ親しんできました。それは、環境的な背景は去ることながら、木のぬくもりや人の心を和らげるといったさまざまな効果を、理屈なしに感じ取っていたからかもしれません。木材理学を学んだのち、木質総合建材メーカー・ウッドワンで商品開発などを手がけてきた新井貴子さんに、プロの視点から木の魅力についてお聞きしました。
木自体の特性のあくまで一つにすぎないのですが、実は天然の木目の不規則さが、視覚的にリラックス効果をもたらすことが分かっています。例えば、逆に等間隔できっちり並んだ直線を思い浮かべていただくと、機械的でどこか冷たいイメージがしますよね。リゾート地にある木製ログハウスや、内外装に木をふんだんに使ったカフェなどは、気分が落ち着いて、ついつい長居してしまいますが、それは木の持つ特性を無意識のうちに享受しているからなのです。木は、住宅の柱、梁といった構造部材から外壁材、内装材まで、実に幅広く使われています。床をはじめ、壁の一部に張ることもありますし、ドアなどの建具も木製のものが多いですよね。それだけ多用されているということはそれだけの魅力があるという証だと思うんです。最近では、リビング・ダイニングと一体となったオープンキッチンが増え、全体的なテイストや空間のつながりを意識して、カウンター背面の化粧板やキッチン自体の化粧扉にも木をよく見かけます。やはり木のあたたかみや、使い込むほど風合いが増す特性が好まれていると言えますね。
「何から話せばいいかな」というほど、木には本当に様々な特性があります。湿度が高いときには水分を吸収し、湿度が低いときには水分を放出するという「調湿効果」、有害な紫外線を吸収する「紫外線吸収効果」、そして、木の細胞がパイプ状になっており、転倒してもそのパイプ状の細胞が変形するためケガをしにくい「衝撃吸収効果」などが挙げられます。このほかにも、他の素材と比べると熱伝導率が低いために、異素材と比較すると、冬に触っても冷やっとしないという特性も。また木材のやさしい香りには「ストレス抑制効果」もあるとされています。フィトンチッドと呼ばれる精油成分によるものですが、そもそも「森林浴」という言葉があるくらいですからね。さらに、高・中・低音をバランスよく吸収して、音をまろやかに聴きやすくする「音響効果」までも。有名な劇場やコンサートホールなどで、よく木が使われているのには、実はこうした理由があるからで、特に安らぎや快適性を求める家づくりに、”木”は欠かせない存在と言えるでしょう。
取材協力:無垢No.1の木質総合建材メーカー WOODONE (外部リンク)